高林龍先生の著書が著作権制限に熱い件 −高林龍『標準 著作権法』を読む(その1)−


こんにちは。


最近、高林龍先生の『標準 著作権法』(有斐閣、2010年12月)*1が出版されました。


で、とりあえず日本橋丸善で立ち読みしてみたんですが…、私、気がついたらレジに並んでました。
この本、かなり、すごい内容になっています。
まだご覧になっていない方は是非とも手にとってみてください。
本体価格2500円とリーズナブルな価格設定です。


で、今日はそのすごいところを紹介します。
とはいえ、私ことですから、権利制限規定、なかでも、著作権法第38条1項(営利を目的としない上演等についての権利制限)に注目していきます。


さて、まずはいつもの確認からです。
著作権法38条1項により、公表された演劇の脚本は、(1)営利を目的とせず(非営利)、(2)観客から料金を徴収せず(無料)、(3)実演家に報酬を支払わない(無報酬)という3つの条件を満たせば、著作権者に無許諾かつ上演許諾料無料で上演することが認められます*2

しかし、この規定にかかわらず、日本演劇協会はアマチュアによる無料公演に対しても上演料の支払いを要求しています*3
また、全国高等学校演劇協議会は、高校演劇部が各種大会において既成脚本を上演する場合は、日本演劇協会の示す上演料5000円を支払って、著作権者の上演許可を取ることを事実上強制しています(上演許可がなければ、高校演劇部は大会で既成脚本を上演することが許されません!)*4


で、こういう対応が行われる背景は何かといえば、著作権法第50条です。
第50条は、著作権(財産権の部分)が制限される場合であっても、著作者人格権は制限されない旨を定めているのです*5
高校演劇では、おそらく大会運営上の制約から(?)、各校の上演時間が60分以内に制限されています。
すると、高校演劇において(もちろん非営利・無料・無報酬の上演です)、60分以内で上演できるように既成脚本を短縮する改変を行うことが問題となります。
著作者人格権には、著作者の「意に反する改変」を許さない、同一性保持権が含まれているからです。


改めて、全国高等学校演劇協議会が作成した「著作権ガイドライン*6を見ておきましょう。

 高校演劇では、全国大会の上演時間が60分以内と定められているため、各ブロック、県、地区大会でも同様の規則を定めている場合がほとんどです。
 60分以内で上演するためには、脚本をカットしたり一部改変したりする作業が必要になります。また、役者の男女比や人数の問題から、語尾を変えたり、脚本をカットしたりする必要も生じてきます。
 つまり、ほとんどのケースで脚本を改変する場合が多いため、「改変の許可を含めた上演許可を取る必要」が生じるのです。
 そこで、高校演劇の大会では、無料公演であってもきちんと「上演許可」を取ることが独自のルールとして定められてきたのです。


で、ようやく本題です。
高林先生の本を読んでみます。


権利制限がある場合の利用形態に関する箇所です。

著作権法38条に規定する営利を目的としない上演等に際しては、翻案しての利用は許容されていない。
しかし、たとえば長編の演劇を学園祭で上演等する場合における短縮化などは実質的同一性を失うものではなく、新たな創作といえるものでもないから、複製の範囲内と評価することができるだろう。
また、このような短縮化は著作者人格権のうちの同一性保持権の侵害となると解する余地もあるが、やむをえない改変(著作20条2項4号)に該当する場合もあろう。*7


高林先生、神です。
「長編の演劇を学園祭で上演等する場合における短縮化などは」、「複製の範囲内と評価することができるだろう」とくるとは!!
私のようなド素人には想像もできなかった発想です。


参考までに、以前紹介した中山信弘先生の説明も引用しておきましょう。
中山先生は「やむを得ぬ改変」という立場です。

条文上は切除も同一性保持権侵害の一態様として規定されているが、原作を改変しないで一部分を利用したことが明らかなような場合は、4号に準じて同一性保持権侵害とならない場合もありうると考えられる。例えば、学校の学芸会で脚本の一部を上演したような場合、全て同一性保持権侵害と解することには問題があろう。 (中略) 解釈論としては、やむを得ぬ改変と考えるべきであろう。*8


それと、私的には、高林先生の一番スゴイところは、著作権法38条1項についての重要な論点の1つが、同一性保持権との関係にあることをよく分かってるってところです。


ということで、高林先生、最強なのですが、一旦ここまでということで…。
次回に続きます。

*1:http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641144224

*2:著作権法第38条1項 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

*3:詳しくは、私の書いた以下のエントリーを参照してください。http://d.hatena.ne.jp/chigau/20081001

*4:詳しくは、私の書いた以下のエントリーを参照してください。http://d.hatena.ne.jp/chigau/20101122http://d.hatena.ne.jp/chigau/20101127http://d.hatena.ne.jp/chigau/20101129

*5:著作権法第五十条 この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない。(筆者注 この款とは著作権法の「第五款 著作権の制限」のことです。)

*6:http://koenkyo.org/chosaku/chosakuindex.html

*7:高林龍『標準 著作権法』(有斐閣)2010年、160ページ。ちなみに、著作権法第20条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。 2 前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。 一 第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの 二 建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変 三 特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変 四 前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変

*8:中山信弘著作権法』(有斐閣)2007年、402ページ。