「全国高等学校演劇協議会各大会における著作権の扱いについて(通達)」について

今日は、先日からの課題だった、「全国高等学校演劇協議会各大会における著作権の扱いについて(通達)」*1について検討したいと思います。
この文書は、1997年10月6日付で全国高等学校演劇協議会会長の相澤一好氏の名前で各都道府県会長及び事務局長宛てに出されたものです。


この通達に次のような記載があります。

3.既成作品を上演する際には、上演する台本についての許諾を著作者に得ること。
 (台本のカット等変更部分があれば、著作権者に許諾を得ること)


この部分を見て、私はまず、「これは著作権法第38条1項に照らしてヘンな規定ではないか」と思いました。


確認します。
著作権法第38条1項は次の通りです。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

だとすれば、既成作品の上演には著作権者の許諾は必要ないことになります。
(高校演劇の大会は、少なくとも都道府県大会レベルまでは非営利・無料・無報酬です。たぶん。ちょっと弱気。)


しかし、括弧内の記載(「台本のカット等変更部分があれば、著作権者に許諾を得ること」)がわざわざ示されている理由がよくわかりません。
私は、「改変についても許諾を受けることを念押ししたのかなあ」、なんて思いました。


しかし、問題はもう少しややこしいようです。
この文書には、「【補足】全国高等学校演劇大会上演作品の創作・既成等の区別について」というものが添えられていて、そのなかの「既成」の定義がやっかいなのです。


引用しましょう。

■既成
・既成脚本をそのまま上演したものであること。
・既成脚本に独自に付け加えることなくカットしたものであること。
・既成作品として扱う。
著作権者に上演脚本を示して上演許可を得ること。)


そうです。
この定義では、既成脚本に改変(カット)を加えたものが「既成」に分類されてしまいます。
そもそも著作権法38条1項は、無許諾での改変までを認める規定ではないので、カットがある作品には38条1項を適用できません。
ですから、カットがあれば、著作権者に対して上演許可を得る必要がありますし、その際に改変についても許可を受けなければならないのは、当然です。


つまり、高校演劇の規定と著作権法の規定で、「既成」のとらえ方にズレがあるです。
著作権法第38条1項では、全く改変を伴わない既成脚本の上演と、改変(カット)を伴う既成脚本の上演では、法的な扱いが異なっているのに、高校演劇ではそれをひとまとめに分類しているために、「既成作品を上演する際には、上演する台本についての許諾を著作者に得ること」と、何でもかんでも上演許可を取るように指導することになってしまうのです。


この結果、高校生や高校の顧問の先生は、もともと高校演劇用に書かれた脚本(=改変もカットもしないで上演できる脚本のことです)にまで、よく分からないままに5000円を支払っているのです。
(くれぐれも誤解しないでいただきたいのですが、ここで私はいろいろとよーく分かったうえで5000円を払うことや、いろいろとよーく説明したうえで5000円を要求することまでを非難しているのではないです。)


じゃあどうすべきか?
単純にいうと、高校演劇界がこれだけ著作権侵害に神経質になっている以上、高校演劇の作品の分類法を著作権法に合致するかたちで手直しするのが、手っ取り早いと思います。
少なくとも、カットがある既成か、カットも改変も一切ない既成かは区別すべきだと思います。


あと、今日の議論には直接関係しませんが、高校演劇の定める「脚色」・「潤色」・「構成」・「翻案」はいずれも、著作権法上は「翻案権」の問題になるんですよね(合ってますか?)。
参考:最高裁第1小法廷判決平成13年06月28日「北の波濤に唄う」事件)
*2


今日はこんなところにしておきますが、今後に向けて覚え書きを2つしておきます。


(1)1997年の問題が分かる資料をやっとみつけました。
大阪府高校演劇連盟のサイトの資料室にあった「知的所有権著作権)を尊重しよう」という文書で1997年10月の日付で大阪府高等学校演劇連盟常任委員会の名前で出されたもののようです。
*3


(2)私が感じている疑問について、fringeというサイトの掲示板で約1年前に交わされた内容がとても参考になります。
*4
おそらく、多くの方はこの掲示板でのやりとりで納得されると思います。
私は、法的な問題としての疑問から出発していますので(モラルとか、礼儀とか、ココロの問題ではなく)、ここでのやりとりを参考に、もう少し突っ込んでみたいと思います。