高校演劇の上演許可指導と法教育上の問題(その1)


すでに紹介したとおり、全国高等学校演劇協議会は加盟校に対し、既成脚本の上演する際は必ず上演許可を得るよう指導しています。
今日からは、高等学校における法教育、著作権教育の観点からみて、このような全国高等学校演劇協議会の指導にどのような問題があるのか、についても少しずつ検討していきたいと思います。


では、議論がちょっと遠回りになりますが、今日は全国高等学校演劇協議会で著作権法上の問題が取り上げられたケースを検討して、本来行われるべき指導のあり方の方向性を考えてみたいと思います。


そこで、全国高等学校演劇協議会で著作権法上の問題が大きく取り上げられたケースを見てみたいと思います。
先日も紹介した「緊急アピール 著作権問題再び」によると、問題になったケースは2回あるようです。
*1


まず1つ目は1997年の問題です。
「緊急アピール」には次のようにあります。

一九九七年、全国大会上演校の著作権に係る重大な問題が起きた。調査の結果、著作権侵害のあったことが確認され、

た、と。


しかし、これではさっぱり分からないのでググっていたところ、大阪府高校演劇連盟のサイトに当時の事情がわかる文書が掲載されているのを見つけました。
1997年10月に出された「知的所有権著作権)を尊重しよう」(大阪府高等学校演劇連盟常任委員会)です。
*2


引用します。

関東地区代表として全国大会に出場して優秀賞を受けNHKBS放送でも放映された、○○学園高校(引用者の責任で学校名を伏せました。以下同様)による『KANATA』およぴ『RAIN DANCE』をめぐる問題でした。これらの作品は○○学園演劇部作の創作劇として上演されて高い評価を得たものでしたが、実は劇団「かもねぎショット」のいくつかの作品の設定、展開、キャラクター、ダンス振り付けと、影響という以上の共通点のあることが明らかになりました。BS放送で『RAIN DANCE』が放映された際、(中略)実は、明らかに著作権を侵害していると認められる部分を削除して放映されたのでした。(中略)○○学園およぴ同校演劇部は賞を返上し関係諸方面に文書で謝罪し、その文書を公表するといった大きな問題になったのでした。

これは、上演許可を受けたとか受けていないとかいう問題でしょうか?


違います。
これでは単なる「盗作」・「盗用」です(法律用語として合っているのか、今の私には分かりません。情けない)。
引用したとおり、「創作劇として上演されて高い評価を得たもの」が、実は劇団「かもねぎショット」のいくつかの作品の設定、展開、キャラクター、ダンス振り付けと、影響という以上の共通点」を持っていたという事件なのですから・・・。


つぎに、2つ目の問題に目を移しましょう。
こちらは「緊急アピール」に事情がわかる記載があります。
引用します。

全国高演協事務局が調査した結果、二〇〇四年の第四六回九州高等学校演劇研究大会で上演された、○○高校(引用者の責任で学校名を伏せました)作「母への贈り物」(向田邦子著『きんぎょの夢』(文春文庫、文芸春秋)より)は、地区大会・県大会・ブロック大会ともに、上演脚本を著作権者に送付して上演許可を得たことが確認できず、出版社である文芸春秋社からの上演許可の条件である「本著作物の内容、表現、題名等を事前の許可なく変更してはならない」との項目にも違反していることが明らかとなった。

こちらも1つめと同様、単純に上演許可を受けたとか受けてないとかいう問題ではないのです。
これは翻案権侵害の問題です(翻案権の問題についての検討は今後の課題にさせてください)。


この2つの問題を受けて全国高等学校演劇協議会は、「全国高等学校演劇協議会各大会における著作権の扱いについて(通達)」を出しました。*3


引用します。

1.創作脚本とは、あくまでも上演校顧問或いは生徒の創作であることを条件とする。
2.創作、脚色作品について、引用もしくは参考にした著作物(小説・映画等)がある場合には、当該作品の著作権者に許諾を得て、その旨を明記すること。(例 題名の場合 〇〇作「〇〇〇〇」より〇〇〇脚色「〇〇〇〇〇」)
3.既成作品を上演する際には、上演する台本についての許諾を著作者に得ること。(台本のカット等変更部分があれば、著作権者に許諾を得ること)
4.振り付けについても著作権は存在するので留意すること。また、舞台美術、衣装等についても、知的所有権の存在するキャラクターを使用する際には、著作権者の許諾を得ること。(例 商標登録R、著作権登録Cのあるもの等。)
5.生徒に著作権についての理解を促すこと。

2つの問題を理解した上で「通達」をみると、「通達」の内容は完全に適切であることがよくわかります。


しかし、その後どこかでボタンの掛け違いが起こっているのです。
現在の全国高等学校演劇協議会のサイト上では、上演許可について次のように記載したうえで、「上演許可願」と「上演許可証」の様式見本を掲載しています。

全国高等学校演劇協議会では、いまだに他人の創作物やダンスを無断で借用する例が後を絶たない事を深く憂慮しています。これまでもいくたびか、うったえてきたことですが、既存の戯曲・小説・漫画などの出版物はもとより音楽・マスコットキャラクターに至るまで、自分がオリジナルに生み出したもの以外、社会に既にある作品や創造物は全て著作権によって守られています。
 高校演劇人である生徒の皆さんに著作権に対する意識を高めていってもらいたいと切に願っております。
*4

この文章は、上述の「通達」の延長線上にあり、2つの問題が起こったことへの対応として自然な内容です。


しかし、「上演許可願」と「上演許可証」の様式見本がいけないと思うのです。
残念ながら、様式見本は画像ファイルで掲載されていてテキストでの引用できませんので、みなさん次のリンク先をご覧ください。
http://www.koenkyo.org/memorial/zyouen/zyouenkyokanegai.gif
http://www.koenkyo.org/memorial/zyouen/zyouenkyoka.gif


いかがですか?
どう見ても、これは、改変(カットを含む)を伴わない既成脚本の上演許可を著作権者に求めるための書式です。


そのうえ様式見本のすぐ上には、

上演許可を得る際は、この2通 の書類を出版社等に送付し、上演の許可が得られた後、別途、現金書留等で上演料を送る必要があります。

と、上演料の支払い義務が当然のように記されているのです。


これでは、2つの問題に対する対応としては不適切なのは明らかです。
なぜって、こういう手続きを踏むことが2つの事件の教訓ではないのですから。


2つの事件の教訓は、次の通りです(正直言うとちょっと自信がありません。が、大間違いではないと思います)。
1つ目の問題からの教訓は、「他人の著作物を自分の創作と偽ってはいけない」、または、「他人の著作物に依拠して新たな著作をなす場合は、元の著作物の著作権者に許諾を得なければならない」です。
2つ目の問題の教訓は、「他人の小説を翻案して脚本化する場合には、小説の著作者・著作権者に許諾をえなければならない」です。


だいぶ長くなったので今日はここまでにしておきます。
今日のまとめです。


繰り返しになりますが、現在、高校演劇で既成脚本の上演にあたっては、改変・カットも伴わない場合でも上演許可を必須としています。
しかし、そのような規定をつくるきっかけとなった事件は、単純な上演許可を怠ったものではなかったのです。


では、また。