全国高校演劇協議会が、高校生が非営利・無料・無報酬で上演するときにも、上演料5000円を支払うよう指導する理由とは?(その1)


こんにちは。


全国高等学校演劇協議会が作成した「著作権ガイドライン」(以下「ガイドライン」と略します)*1についての検討を続けます。


ガイドライン」は、高校演劇で既成の脚本を上演する場合の上演料について、次のように書いています。

高校演劇では、上演許可を取ると同時に上演料を支払うことになっていますが(以下略)


この文言は(高校演劇が、通常、非営利・無料・無報酬で上演されていることを考えると)、にわかには信じがたいものです。
著作権法が、非営利・無料・無報酬での上演は、権利者に無許諾かつ著作権使用料の支払いなしに、上演できることを定めているからです*2
ただし、法的には、このような場合にも、同一性保持権*3は、影響を受けないとされているので、著作者の意に反する脚本の改変はできません。


が、前回のエントリー*4でご紹介したとおり、そもそも全国高校演劇協議会は、次のような論理で、高校演劇部の非営利・無料・無報酬で上演においても「上演許可」を取ることを「高校演劇独自のルール」だと定めているのです。

(高校演劇では)脚本を改変する場合が多い
     ↓
(ほとんどのケースで)「改変の許可を含めた上演許可を取る必要」が生じる
     ↓
 高校演劇の大会では、無料公演で、改変のない場合でも必ず「上演許可」を取ることが独自のルールとして定められてきた


なんというか・・・雑な(恣意的な?)論理です*5


で、ここからが今日の問題なのですが、仮にその論理を受け入れるとしましょう。
それが、なぜ「高校演劇では、上演許可を取ると同時に上演料を支払うことになっています」となるのか、これはまったく理解できません。


図式的に示せば、こういうことになってしまいます。

(高校演劇では)脚本を改変する場合が多い
     ↓
(ほとんどのケースで)「改変の許可を含めた上演許可を取る必要」が生じる
     ↓
 高校演劇の大会では、無料公演で、改変のない場合でも必ず「上演許可」を取ることが独自のルールとして定められてきた
     ↓
 高校演劇では、上演許可を取ると同時に上演料を支払うことになっています

まったくなんのことやら、理解不能な論理です。


と、ここで、「いやいやそうじゃないよっ」って声が聞こえた気がします。
わかってますって、その後を読めっていうんでしょう。
確かに「ガイドライン」には、こう書いてあります。

これは、社団法人日本演劇協会が、アマチュア演劇公演の料金について以下のように定められていることが根拠になっています。(以下に参考資料として掲示してあります。)
高校生の無料公演に関しては、上演時間に関係なく、上演1回につき5,000円と明記されています。法的な根拠があるわけではありませんが、慣習として、多くの劇作家の方がたの間に定着しています。


しかし、残念ながら、これでは根拠にはなりません*6
なぜなら、まず第1に、日本演劇協会はプロの演劇関係者がつくっている団体で、アマチュア演劇の関係者(高校演劇の関係者を含む)を含まない団体だからです。


だって皆さん考えてもみてください。
仮に、日本音楽著作権協会JASRAC)が、「アマチュアバンドが、非営利・無料・無報酬でライブを行う場合、演奏時間1時間あたり5000円支払うこと」という規定を勝手に作って、無料ライブを行ったアマチュアバンドに著作権使用料の支払いを要求してきたらどう思いますか?
あなたなら著作権使用料を支払いますか?*7


つまり、「社団法人日本演劇協会が、アマチュア演劇公演の料金について以下のように定められている」というのは、日本演劇協会(=権利者団体)が、著作権法の規定を無視して、勝手に上演料の支払いを押しつけてきているっていうだけの話なんです。
ですから、全国高校演劇協議会が、それを根拠に「高校演劇では、上演許可を取ると同時に上演料を支払うことになっています」といってしまうのは、まったく理解不能なわけです。


第2に、「ガイドライン」は、「法的な根拠があるわけではありませんが、慣習として、多くの劇作家の方がたの間に定着しています」とも書いています。
しかし、この部分もナンセンスです(そもそも法律の規定を無視して日本演劇協会(=権利者団体)が定めたことに法的な根拠があるはずはありませんし・・・)。


だって、権利者団体が定めた通り上演料を請求することが、多くの劇作家(=権利者)に慣習として定着しているのは、あくまでも劇作家の方々の側の事情ではないですか。


これが、脚本の改変がない場合にも上演料5000円を支払うということが、日本演劇協会会員の劇作家と全国高校演劇協議会加盟の全国の高校演劇部との間に、すでに慣習として定着しているというのならば話は少しややこしくなりそうです*8
しかし、実際にはそういう慣習が定着していないからこそ、全国高校演劇協議会は、いまだに「高校演劇独自のルール」の遵守を全国の高校演劇部にことあるごとに呼び掛け続けているのではないでしょうか。


今日のまとめです。


全国高校演劇協議会が、高校演劇部の非営利・無料・無報酬で脚本の改変がない上演についても「上演許可」を取ることを「高校演劇独自のルール」だと定め、権利者に対して上演料5000円の支払うよう指導することは、法的にみて適切なこととは考えられません。


それは、一見ていねいにまとめられた「著作権ガイドライン」の説明が、実は論理的に破綻していることから明らかです*9

*1:http://koenkyo.org/chosaku/chosakuindex.html

*2:著作権法第38条1項は次のように定めています。「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」

*3:著作権法第20条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

*4:http://d.hatena.ne.jp/chigau/20101122

*5:この論理のもつ問題点は、また別のエントリーで論じたいと思っています。論点の1つは、高校演劇の既成作品の上演において、本当に「ほとんどのケースで脚本を改変する場合が多い」のかということです。

*6:本論とはまったく関係ありませんが、「ガイドライン」には日本語の表現としておかしい箇所がいくつもあります。引用箇所の1文目は、「社団法人日本演劇協会」に対する尊敬語的な表現なんでしょうか? 全国高校演劇協議会は言葉に関わる団体なんでがんばってください。かくいう私もときどき変な文を書いてますが・・・。

*7:私は、以前、日本音楽著作権協会JASRAC)と日本演劇協会とを対比するエントリーを書いたことがあります。ちなみに、日本演劇協会著作権管理団体ではありません。http://d.hatena.ne.jp/chigau/20081001

*8:この問題については、私のエントリー「著作権法第38条1項と契約のoverridability」を参照してください。http://d.hatena.ne.jp/chigau/20100907

*9:ということで、全国高校演劇協議会の著作権法に対する理解がそもそも間違っているということになります。しかし、これだけていねいな「ガイドライン」を作成されていることを考慮すると、(非常に穿った見方をすればですが)実はいろいろ法的なことはよく分かっていて、何らかの事情があって意識的に法的・論理的に間違った苦しい説明をしている可能性を想像してしまいます。