全国高校演劇協議会が、高校生が非営利・無料・無報酬で上演するときにも、上演料5000円を支払うよう指導する理由とは?(その2)


こんにちは。

全国高等学校演劇協議会が作成した「著作権ガイドライン*1についての検討を続けます。


まず、前回*2の確認ですが・・・。
全国高校演劇協議会は、高校演劇部の非営利・無料・無報酬で脚本の改変がない上演についても「上演許可」を取ることを「高校演劇独自のルール」だと定め、権利者に対して上演料5000円の支払うよう指導しています。


著作権法は、非営利・無料・無報酬かつ脚本の改変がない上演について、権利者に無許諾かつ上演料無料で上演することを認めているのに*3、これは、いったいぜんたい、なぜなのでしょうか?


私の仮説は・・・。
何らかの理由で、全国高校演劇協議会が、権利者側(劇作家)の意向に添う対応を迫られてしまっているためではないかと思います。

うーん、少し違うか?

全国高校演劇協議会が、権利者の団体と法的な話がきちんとできなくて(弁護士とかにちゃんと相談しているんでしょうか?)、かつ、高校演劇部の顧問の先生方がこの問題を最終的に裁判で争うのを避けようとする傾向があって、結果として、権利者側のいいなりになっているのではないかと思うのです。


今日はこのことを、全国高校演劇協議会「著作権ガイドライン」(以下「ガイドライン」と略します。)における脚本と音楽の扱いの違いに着目して検証してみます。


では始めます。
はじめに、もう一度、「ガイドライン」が脚本の改変について説明している箇所を確認しておきましょう。

 高校演劇では、全国大会の上演時間が60分以内と定められているため、各ブロック、県、地区大会でも同様の規則を定めている場合がほとんどです。
 60分以内で上演するためには、脚本をカットしたり一部改変したりする作業が必要になります。また、役者の男女比や人数の問題から、語尾を変えたり、脚本をカットしたりする必要も生じてきます。
 つまり、ほとんどのケースで脚本を改変する場合が多いため、「改変の許可を含めた上演許可を取る必要」が生じるのです。
 そこで、高校演劇の大会では、無料公演であってもきちんと「上演許可」を取ることが独自のルールとして定められてきたのです。


つぎに、「ガイドライン」には「無料公演における音楽著作権の自由利用」について述べた部分もあります。
音楽に関する該当部分を引用します。

音響効果さ(ママ)や舞台上で演奏や歌唱する場合、著作権のある楽曲を使用する場合、基本的には、著作権者から演奏の許可を得ることが定められています。
しかし、無料公演で、非営利目的の上演の条件を満たしている場合、「著作権の制限」の対象となり、著作権者の許可なく利用が可能となります。
脚本については、改変する必要が生じる場合がほとんどなので、非営利目的の上演であっても、必ず許可を取るという高校演劇独自のルールを定めていますが、音楽に関しては、改変する必要が生じない場合が多いため、法律の規定に従い自由に利用して良いことになっています。(無料公演で、非営利目的の上演を満たしている場合に限る)


どうですか?
私は苦笑するしかありませんでした。


皆さんは、「音響効果さ(ママ)や舞台上で演奏や歌唱する場合」、「音楽に関しては、改変する必要が生じない場合が多いため、法律の規定に従い自由に利用して良い」という全国高校演劇協議会による説明を本当だと思いますか?


私は違うと思います。


ていねいにいい直しますね。
ガイドライン」が用いる「改変」という言葉のさす意味内容が、音楽の場合も脚本の場合と同じであれば、「音楽に関しては、改変する必要が生じない場合が多い」とは絶対に言えないと思います。


どなたでもお分かりいただけると思いますが、劇中で音楽を使用する場合に楽曲を1曲まるごと使うってことはほとんどありません。
「音響効果さ(ママ)や舞台上で演奏や歌唱する場合」は、ほとんどのケースで楽曲の一部をカットして短くするという形の改変を行いますから。
もうおわかりですね。
そう、これはちょうど既成脚本の一部をカットして、大会規定の上演時間60分以内におさめるのと同じような改変なんです。


で、事実としては、高校演劇の大会では音楽については権利者の許諾は基本的に要求されていません。
が・・・、演劇の上演する際に使われる音楽は、ほとんどの場合に改変されています。


とすれば、全国高校演劇協議会が、もし「ガイドライン」のいう「改変」という言葉を、音楽の場合も脚本の場合と同じ意味で使用していれば、「音楽に関しては、改変する必要が生じない場合が多い」とは絶対に言えないはずなんです。


で、(ここからが重要なんですが・・・)演劇部の顧問の先生から上演許可について指導されている高校生もそれぐらい気がつくと思うんです。
ちょっと頭のいい子なら・・・。
そこで、高校生から、
「脚本は一部カットする場合でも権利者の許可が必要なのに、音楽の場合には権利者の許可はとらなくてもいいんですか?」
と質問されたら、この「ガイドライン」を作られた先生は、いったいどのように説明するのでしょうか?


この点について「ガイドライン」にはつぎのような記載があります。

楽曲をそのまま利用せず、歌詞をかえたり編曲したりするなど楽曲を改変する場合は、「著作者人格権」にかかわってきますので、改変の許可が必要です。


つまり、明言されてはいませんが、「ガイドライン」で用いられている「改変」という言葉は、脚本と音楽では違った意味で使用されているわけです。
そして、全国高校演劇協議会の考えとしては、音楽について、楽曲の一部をカットして短くするという改変は、著作者人格権にかかわってこないので、改変の許可は不要だということです。


なぜでしょう?


私はこの原因が権利者側の態度にあるのではないかと思うのです。


まず演劇の場合です。
日本演劇協会*4は、(ズルいことにWeb上には公表していませんが・・・)アマチュア演劇の上演料を次のように定めています。

入場料無料・上演時間1時間30分以内の場合 10,000円
入場料無料・上演時間1時間31分以上の場合 20,000円

(中略)

・尚、高校演劇に関しては(入場無料の場合)上演時間にかかわりなく、上演1回につき、5,000円とする。

・当規定は1993年(平成5年)5月1日より実施*5


この規定について、気がつくことをまとめておきます。
(1) 上演するのがアマチュアですから基本的に非営利・無料・無報酬での上演だと思うんですが、日本演劇協会の感覚では上演料取るのがデフォルトなんですね。


(2) そして、アマチュアであっても(プロの公演と同様に)、原則として、上演時間が長くなると上演料が高くなります。


(3) しかし、1時間31分以上の上演時間の作品は脚本を改変することなく上演するよりも、脚本をカットする改変をおこなって上演時間1時間30分以内にした方が、上演料が安くなってしまうというパラドックスが・・・。
この点について、私は日本演劇協会に電話で確認したことがあります。
そのとき電話に出た方によれば、この規定は、著作権法上、脚本の改変の有無によって上演料が有料になるケースと無料になるケースがあるということは考慮しておらず、アマチュアの上演においても(プロと同様に)脚本の改変の有無にかかわらず上演料を求めているそうです*6


(4) (1)・(2)・(3)の延長線上の話として・・・。
日本演劇協会は、高校演劇*7においては、脚本の改変の有無や「上演時間にかかわりなく、上演1回につき、5,000円」の上演料の支払いを求めているそうです・・・。


つぎに音楽について、日本音楽著作権協会JASRAC)の対応見てみます。


JASRACの公式サイトには「音楽ユーザーの皆さま 手続きのご案内」や「学校など教育機関での音楽利用について」という案内があり、そのリンク先に「演劇・漫才などの催し」という部分があります。*8
で大事なのは「演劇・漫才などの催し」のところに「はじめて利用手続きをされる方」に対して「手続きの前に」見てもらいたい内容が示されていることです*9


引用します。

コンサート、ダンス・演劇の公演、オペラ等の上演などに音楽をご利用の場合には、事前にJASRACに利用申込手続きをとり、許諾を受けてご利用ください


■開催される催物によっては、JASRACへのお手続きは必要ない場合がありますので、ご不明な点はお気軽にご相談ください。


■下記の(1)・(2)のいずれかに該当する催物は、申込書類のご提出は必要ありませんが、念のため、各支部までご連絡いただけますようお願い申し上げます。
(1)JASRACの管理作品を利用しない場合
著作権が消滅した作品やJASRAC非管理の作品のみを利用する場合
(2)著作権法第38条1項の規定に該当することにより自由利用が認められる場合※(以下の3つの要件をすべてみたす場合のみ)
・営利を目的としない
・聴衆または観衆から入場料(いずれの名義をもってするかを問わない)を受けない
・出演者に報酬(ギャラ)が支払われない


※下記A〜Dのような催物は、第38条1項の自由利用の範囲にはあたらず、お手続きが必要となります。
A:営利法人(株式・有限会社など)・営利を目的とする団体または個人が主催・共催のとき
B:特定の商品やプログラムなどを購入した方でなければ入場できないとき
C:年会費などの会費を徴収し、それらの会費で運営されるとき
D:出演者に交通費・宿泊費などの実費を超える金銭・常識的範囲を超える物品等が渡される、 または出演者のCD・カセットテープ販売など実演家の収益につながるようなサービスを条件に実演家が出演するとき


改変云々について、JASRACの説明では触れていません。


このように、作品の改変について、脚本=日本演劇協会と音楽=JASRACでは、対応が全く異なっているのです。*10


そこで、私は、この権利者サイドの考え方・意向にそのまま添う形で、全国高校演劇協議会の「著作権ガイドライン」が書かれているのではないかと思うのです。
なぜ、権利者側のいいなりなのか?
それはよくわかりませんが・・・。


いずれにしても、生徒の疑問に答えられない「著作権ガイドライン」っていうのは、ちょっと(っていうか、かなり)いただけないのではないかと思います。

*1:http://koenkyo.org/chosaku/chosakuindex.html 以下「ガイドライン」と略します。

*2:http://d.hatena.ne.jp/chigau/20101127

*3:著作権法第38条1項は次のように定めています。「公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。」

*4:http://d.hatena.ne.jp/chigau/20081001を参照してください。公式サイトhttp://www.jtaa.or.jp/

*5:私が日本演劇協会から直接いただいた資料による。実物は表の形になっています

*6:日本演劇協会の電話に出た方は、この上演料規定に法的拘束力がないことも理解しているようでした。いやはや・・・。それと・・・、議論としてはまったく無意味なんですが、こんなことを考えてみるとバカバカしい感じがよく分かります。仮に、脚本の改変なしで2時間の作品を上演する場合を考えてみます。この場合著作権法日本演劇協会の規定をともに尊重する立場をとると、全く改変しないで2時間上演する場合は上演料無料、1時間31分以上の上演時間の範囲になるような小さな改変をおこなうと20,000円、1時間30分以内になるよう大規模にカットすると15,000円になります。上演時間が一番長いケースで上演料が無料になり、脚本をちょっとカットすると一番高くて、カットしまくると最も安くなってしまうので、何だか笑っちゃいます。

*7:今日の本題からはズレますが、この規定のいう「高校演劇」が、高校演劇部が全国高校演劇協議会や都道府県単位の連盟主催の大会において上演する場合に限定されるのかどうかは気になります。

*8:http://www.jasrac.or.jp/info/event/ent.html

*9:http://www.jasrac.or.jp/info/event/bepro.html

*10:もちろん、演劇と音楽という異なる形式の表現をまったく同列で語ることはできませんが・・・。以下追記です。JASRACは、演劇上演で音楽が使用される際の改変(短くカットすること)は、いわゆる「やむを得ない改変」にあたると考えているのかもしれません。著作権法第20条は、第1項において同一性保持権を定め、著作者の意に反する改変を禁止していますが、第2項においてその例外を列挙しています。なかでも第4号は一般条項的な意味をもっており、これに該当する改変は「やむを得ない改変」と呼ばれているのです。「第20条 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。 2  前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。 四  前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」。なお、「やむを得ない改変」については、私の以下のエントリーも参照してください。http://d.hatena.ne.jp/chigau/20100820